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東京高等裁判所 昭和59年(行ス)24号 決定 1984年10月29日

抗告人(申立人) 青木純一 外八名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  よつて判断するに、本件本案訴訟(原告株式会社進栄建設コンサルタント、被告八王子市建築主事外一名間の東京地方裁判所昭和五八年(行ウ)第一二〇号不作為の違法確認等請求事件)につき本件建築確認申請に対する被告八王子市建築主事の不作為の違法を確認する旨の判決がなされても、同被告は建築確認をなすべき拘束を受けるものではない。抗告人らは、右のような判決がなされた場合、同被告が建築確認をする可能性が非常に強いと主張するが、その主張どおり同被告が建築確認をするに至るとしても、それはいかなる意味においても右のような判決の拘束力によるものではない。したがつて、抗告人らは、本件本案訴訟の結果、権利を害される第三者に当たるとはいえない。そして、他に抗告人らが訴訟の結果により権利を害される第三者に該当することを認めるに足りる資料はない。

三  よつて、抗告人らの本件訴訟参加申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木弘 鹿山春男 赤塚信雄)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

抗告人を東京地方裁判所昭和五十八年(行ウ)第一二〇号不作為の違法確認等請求事件に参加させる。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定の理由とするところは、不作為の違法を確認する判決が出た場合、その判決の被告建築主事に対する拘束力は、当該建築計画が関係法令に適合するか否かを審査して何らかの処分をしなければならないという限りにおいて生じるにとどまり、当然に建築確認をなすべき拘束力を生じるものではない、というにあるようである。

二、しかしながらこれは形式論であつて、不作為の違法確認訴訟の提起される目的、判決のもたらす現実的効果や機能を無視したものである。

被告建築主事は本訴において、当該建築計画が形式上は関係法令に適合しているが、本件のように特別な事情があるときは確認を留保しても違法ではない、という対応をしているのであるから、万一確認を留保する正当な理由がないというような判断がなされて、不作為の違法を確認する判決が出た場合には、確認をおろす可能性が非常に強いことは明らかである。

原告もそのように判断したからこそ、本訴を提起したと考えられるのである。原告の究極の目的が、本訴で勝訴判決を得ることにあるのではなく、判決の結果、被告建築主事に確認をおろさせることにあるのは当然であり、この種の訴訟は全てその目的で提起されているのである。

よつて原決定が、不作為の違法を確認する判決は当然に建築確認をなすべき拘束力を生じるものではない、という形式的判断で参加申立を却下したのは不当であるから、原決定を取消し、抗告人の訴訟参加を認める裁判を求める為本件抗告に及んだ次第である。

原審決定の主文及び理由

主文

本件申立てをいずれも却下する。

理由

一 申立人らは、当庁昭和五八年(行ウ)第一二〇号不作為の違法確認等請求事件のうち原告と被告八王子市建築主事(以下「被告建築主事」という。)との間の訴訟(以下「本案訴訟」という。)について同被告のため行訴法三八条一項、二二条一項に基づき訴訟参加する旨を申し立て(以下「本件申立て」という。)、その理由の要旨を次のとおり述べた。

1 申立人らは、いずれも肩書住所地に土地、建物を所有(ただし、申立人塚本雪は同人の夫が所有)しかつ居住し、同所においてそれぞれ良好な生活環境を享受し、支配、維持する権利あるいは法的利益を有している。

2 原告は、別紙物件目録(一)記載の土地上に同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築を予定し、そのための建築確認申請(以下「本件確認申請」という。)を被告建築主事に対してなしている。しかし、本件建物は、四〇戸から成る単身者用のリースマンシヨンであるところ、このようなマンシヨンは、管理がなおざりであるうえ、その入居者は、仮住居という意識しかないため、勝手な生活をし、ゴミの不始末、不法駐車、早朝深夜の騒音、風紀の乱れ等々の問題を引き起こすことが予想される。したがつて、本件確認申請に対し、建築確認が下り、本件建物が完成するときは、申立人らの良好な環境を享受する権利あるいは法的利益が害されることは明らかである。

3 ところで、本案訴訟すなわち本件確認申請に係る被告建築主事に対する不作為の違法確認請求が認容されたときは、同被告は、本件確認申請に対し建築確認をする恐れが非常に強い。したがつて、同被告において、右請求認容の判決に従わないことが明らかである場合を除き、申立人らは、行訴法二二条一項に規定する「訴訟の結果により権利を害される第三者」に該当するものと解すべきである。なお、本件では右にいう除外事由も存在しない。

二 そこで、申立人らが行訴法二二条一項に定める訴訟の結果により権利を害される第三者に当たるかどうかを検討する。

本案訴訟の審理の結果、本件確認申請に対する被告建築主事の不作為の違法を確認する判決がなされた場合、当該判決の拘束力は、同被告に対し、本件建物の建築計画が本件建物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するかどうかを審査したうえ、右計画が右規定に適合すると確認されたときは、その旨の通知を(建築基準法六条三項)、右計画が右規定に適合しないと認められたとき、又は本件確認申請書の記載によつては右規定に適合するか否か決定できない正当な理由があるときは、いずれもその理由をつけてその旨の通知を(同条四項)、原告に対してしなければならないこととなる(行訴法三八条一項、三三条)限りにおいて生じるにとどまり、当然に建築確認をなすべき拘束力を生じるものではない。したがつて、申立人ら主張のような良好な環境を享受する権利あるいは法的利益が各申立人について肯定できるとしても、申立人らは、本案訴訟の結果、右権利あるいは法的利益が害される第三者に当たるものではない。

そして、他に申立人らが「訴訟の結果により権利を害される第三者」に該当することを認めるに足りる資料もない。

三 よつて、本件申立ては理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

物件目録<省略>

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